坂田:こどものうたって、いろんな作りかたがあると思うんだけど、僕が一番得してるなあと思ったのは、じぶんの作った曲に限らず、童謡も「おかあさんといっしょ」の新曲も、すべてこどもたちといっしょに歌って、毎回彼らの反応を見られたことです。
こどもたちの反応がすごかったのは、たとえば「アイアイ(作詞 相田裕美 /作曲 宇野誠一郎)」 。曲のノリがすごくよくて、あの曲はいつ、何回やってもすごかった。このアイアイにはおさるさんポーズの振りがついていて、僕の入る前からもう伝統芸能みたいになっていました(笑)。僕がおにいさんになる10何年も前からやってたんじゃないかなあ、あの振り。
もちろんそんな大盛り上がりの歌ばかりではなくて、もう何千曲と歌うわけですから、中にはこどもたちの反応があまりよくなかったとか、いろいろあるわけです。毎回スタジオでその反応が見られたので、こういう曲はこどもたちが好きそうだ、こういう歌はあんまり好きじゃないだろうとだんだんわかってくる。それはほんとうに勉強になりました。
…まあ、でもそれもはっきりと言語化できるものではなくて、――そんなはっきりわかってたら私、もっと量産していますよ(笑)。
―「おかあさんといっしょ」のおにいさん時代に、ほかの作家さんの作品で感心された歌は?
坂田:「パンタうさぎコアラ」という、高田ひろおさん作詞、乾裕樹さん作曲の歌です。
僕がうたのおにいさんだったときに、スタジオでこどもたちといっしょに何百回も歌った歌なんですけど、いちばん最初に「今度の歌これだから」って渡された歌詞を読んだ時には「なめとんかい」と(笑)。だって、歌詞が「パンダ」「うさぎ」「コアラ」と「おいで」だけなんですから!…譜面を見ると、これがいいメロディーがついていて…はあ、やられたなと(笑)。
―坂田さんから見て、どこが素晴らしかったのですか?
坂田:これは手遊びの歌で、みんな「パンダ」「うさぎ」「コアラ」の3つのポーズがやりたくて待ってるんだけど、詞と、メロディと、振りが合わさった、ものすごい名曲だと思います。その3つの振りは、高田さんが詞を提案する時に、それぞれのポーズの絵をつけていっしょに提出したんですって。…すごいよね。
それと、手遊びの歌で途中から速くするのは定跡なんですが、当時のスタジオ収録ではカラオケはまだあまり使っていなくて、スタジオの脇にエレクトーンの先生がいてその伴奏に合わせて歌うことが多かった。自由自在に歌うテンポを変えられたので、こどもたちが最も盛り上がるテンポだったり声のかけかただったりを試して、スタジオで、こどもたちといっしょに育っていった曲だと思います。
―もう一曲、編曲という観点から印象に残っている歌は?
坂田:こどものうたにとって編曲はすごくだいじだと思います。いい歌なのにアレンジで失敗してる歌ってたくさんあって、…詞も曲もいいのに"この編曲では気の毒"と思うこともある。
そこにいくと福田和禾子先生編曲の「北風小僧の寒太郎」は、ほんとうに素晴らしいと思う。「みんなのうた」や「おかあさんといっしょ」で歌い継がれてきて、歌い手が変わってもあの編曲をさらにはアレンジしようがないだろうと思うし、ちょっと"こども演歌"みたいなというか、こどものうたらしさもちゃんとあって、井出隆夫先生の詞の世界、福田先生のメロディーライン、…この詞曲にはこの編曲しかないでしょ!という完成度の高い作品だと思う。この曲のように詞・曲・編曲が三位一体になっているのが理想だよね。
坂田おさむ
シンガーソングライター・作詩家・作曲家。
1977年「BYE-BYE東京」でシンガーソングライターとしてデビュー。 1985年から1993年までNHK「おかあさんといっしょ」の第7代「うたのおにいさん」を務める。
代表作は、「どんないろがすき」「ありがとうの花」「にじのむこうに」「あしたははれる」「タンポポ団にはいろう!!」「シアワセ」「はるのかぜ」「夢の中のダンス」(以上「おかあさんといっしょ」)、「ママの結婚」(「みんなのうた」)など。
親子三世代ファミリー層を中心に絶大な人気を博し、ファミリーコンサートを展開しているほか、障害を持つ子とその家族を対象としたステージ、小児病棟や心臓病の子の集いなどの活動も広く行っている。2021年童謡文化賞受賞。
うたのおにいさん 坂田おさむオフィシャルウェブサイト http://www.osamu-world.com/
坂田おさむツイッター https://twitter.com/sakata_osamu