「あめふりくまのこ」の思い出

一色 まりえ(いっしき まりえ 詩)

小学四年生の夏、林間学校でキャンプファイヤーをする予定が、突然の土砂降りで中止になってしまった。私たちは部屋に戻って恨めしい気持ちで窓の外を見た。燃え盛る炎の周りで歌うことを、ずっと楽しみにしていたのだ。

突然、誰かがおやまにあめがふりましたと歌い始めた。あとからあとからふってきてと数人が続ける。それから、狭い部屋で「あめふりくまのこ」の大合唱が始まった。当然、指揮も伴奏もない。お世辞にも上手とは言えないような合唱だった。しかしあの時、弾けんばかりの笑顔で歌った童謡は、間違いなく私たちの心を照らす灯火であった。

童謡には消費期限がない。持ち運びも自由。だから私たちは、幼い頃に覚えた歌を心のポケットに大切にしまって生きる。それは時に灯火になったり、傘になったりして、私たちの人生をより豊かなものにしてくれるのだ。

童謡誕生100年記念誌「明日へ」 (2018年発売) より再録

松本麻里衣(一色まりえ)プロフィール
成蹊大学法学部卒業。
大学3年時日本童謡協会に入会。
2008年ひろの童謡まつり作詩作曲コンクールにおいて、作詩「夕立」が佳作となる。
現在、子育て奮闘中。こどものふとした一言に新たな発見があります。私の詩人人生の第二幕では、それらを詩にしていきたいです。