昨年秋にスタートした日本童謡協会のイベント「童謡サロン」。いずれも好評を博したお話の中から、第三回童謡サロンの新沢としひこさん「童謡の作詞にあたって大切なこと」のお話を特別掲載します。童謡・こどものうたの詩、作詞の面白さが詰まったトークを、たっぷりお楽しみください。

(構成 桑原永江)

 僕は子どもの歌をたくさん作ってきました。子どもの仕事をもともとすごくしたいと思っていて、小学校の卒業文集の「将来の夢」に「僕は童話作家になりたい」と書きました。クラス会とかで昔の友達に会ったりすると、お前はその通りになったなって言われたり、夢が叶ってよかったねって言われたりしますが、自分も子どもなのに、子どものことを仕事にしようと思っていました。

 中学生の頃にはもう子どもが歌う歌の詩を書いていました。それはなぜだったのか。――僕の両親は、保育園の園長先生と、当時は保母さんと言いましたけど保育士さんの夫婦で、おじさんは教会の保育士さん、おばさんは公立保育園の園長先生。やたら周りに保育士さんがいる環境で育ちました。だから、子どものことを仕事にすることが もしかしたら普通だったのかもしれません。

 その芽生えは――、僕が通っていた松沢幼稚園というキリスト教系の幼稚園は「子どもたちに本物を」という考えのところで、みんなが集まる部屋に動物のはく製や地球儀があったり、講師がやってきて音楽を教えたり、当時としてはアカデミックな教育をしていました。その中に音楽鑑賞の時間があって、先生がレコードを出してきて「今日聴くのは「森の水車」という曲です。どこどこのなんとかという方が作りました。森の水車が川の流れでトコトコと回っていくところを音楽にしています。じゃあ聴いてみましょう」と言って、レコードをかけて聴く時間だったんです。僕の友達たちは、みんな集められてレコードを聴かされるその時間が大っ嫌いだったけど、僕はそれをちゃんと聴いて「すごいなるほど、森の水車だ水車だ」とか思うタイプで、その時間が大好きで、音楽って楽しい!と思ってました。

 当時、幼児の音楽のレコード全集があって、それがもう僕は大好きで、結局親に買ってもらいました。だからすごくよく覚えてるんです。あるときは先生が「今日は「クシコスの郵便馬車」という曲です。昔は車じゃなくて馬車でお手紙を届けたんだけど、この曲は、とても寒い外国のシべリアの方で、郵便屋さんの馬車が大事な手紙を雪に負けないで一生懸命届けるぞ、ってそういうところを表した曲なんです」と言って、聴いたら♪タッタッタン タッタッタン タッタッタッタッタン~って曲が流れてきて「わっ雪の中を馬車が走ってる!すごい曲だ」って思ってたの僕は。で、小学校に行ったら運動会の徒競走のときに流れてきて「え?これはクシコスの郵便屋さんの、雪の中を手紙を届ける曲なのに」(笑)って思ったことをよく覚えています。そのくらい強烈にいろんなことを覚えてるんです。

 幼稚園では歌の時間もあって、7割くらいは子ども賛美歌を歌っていましたが、時々そうではない歌も歌って、♪ターロさんの赤ちゃんが風邪ひいた~とかの遊び歌をやったりしました。それである時「シャベルでホイ」って歌をやるときに、先生が読んでくれた歌詞に「もぐらのおじさん 道普請(みちぶしん)」って出てきたとき、全員きょとん?です。先生が「道普請ってみんなわかる?」って聞くと、もちろんみんなわからない。先生が「道を直したり、凸凹した道をきれいにしたり作っていったりすることを道普請っていうの」って言われて。僕はそのとき「道普請、道普請」って思って、その歌については道普請しか覚えてなかった(笑)。

 僕は大人になって子どもの歌を作る時に、この歌を子どもはどんな気持ちで聴くかな?って思って作るんですが、それは全部 自分が子どもの頃に歌をどんな風に感じていたかが原点になっているんです。「シャベルでホイ」についても、大人になってからあの歌って何だったの?って検索して、サトウハチローの「シャベルでホイ」だったんだって思ったくらいで、そのくらい道普請って言葉が残ってたの。

 僕は、作詞する時、基本的には子どもたちがわかる言葉を使いなさいって言われてきて、子どもたちがわかるように書くことを心がけているけれど、実は、子どもたちは不思議な言葉やわからない言葉を聞いてもちゃんと受けとめたり、そういう言葉なんだって思う力があるんだと信じて書いています。それは自分がそうだったから。でもそれは歌の中に大人の単語が混ざればいいってことじゃなくて、もぐらのおじさんの詩の中で道普請って言葉が生き生きと使われてたからだったんだろう。それがちゃんと伝わって、僕は受け止めていたんだと後で思ったんです。だから、子どもの頃に歌をどう感じたかなってことが自分の中ですごく大事なことなんですね。

「音楽って楽しい!」と思った松沢幼稚園時代
人生で初めての劇の役は「歌う天使」(左写真)、合奏では太鼓を叩きました(右写真)。