「世界中のこどもたちが」という歌があります。
♪世界中のこどもたちが いちどに笑ったら 空も笑うだろう ラララ海も笑うだろう ひろげよう ぼくらの夢を とどけよう ぼくらの声を さかせよう ぼくらの花を 世界に虹をかけよう――って歌です。この歌は中川ひろたかさんが曲を書いてますが、いちばん最初に中川さんに渡した時は、違う詩だったんですね。
それは「世界中のこどもが」っていう詩で、それが「世界中のこどもたちが」に変わったんです。いちばん最初の詩は、(少し沈んだトーンで)「世界中のこどもが いちどに笑ったら 空も笑うだろう 海も笑うだろう」だったんです。これを書いた時、僕はかなり谷川俊太郎さんに憧れていて、これは詩集に載るような詩のつもりで書いた。ある少年のつぶやきと思って書いたんです。ある少年が、例えばテレビのニュースや戦争のニュースを見ていて、(低い声で)「世界中のこどもが いちどに笑ったら 空も笑うだろう 海も笑うだろう」みたいなつぶやきのトーンで、これは朗読してほしい詩として、金子みすゞの詩を読むように読んでほしいと思って書いた詩だったんです。
その当時 中川さんに、僕は一枚の紙にたくさんの詞を一緒に書いてFAXで送っていたんですよね。FAXを一度にしようと思って、大きい紙に小さくいっぱい書いて送ったんですけど、その中に隙間がちょっとあったから載せたくらいのもので、この詩に曲はつかないだろうって思った。そしたらですよ。中川さんが曲がついたよって言ってきたんです。
「聴いてね。だけどさ、ちょっと詞を変えたいんだけど」って言うわけ、何をって言ったら「世界中の“こどもが”を“こどもたちが”に変えていい?」って言ったんですよ。
「これ、“こどもたちが”の方が曲に乗るから」って言われて、いいですよって答えたら、「それでね。あとラララも入れていい? 空も笑うだろう ラララ 海も笑うだろう でいきたいんだけど」って言うので、いいですよって言ったの。でも僕はどんどん詩が変わっていくと思った。それを最初に聞いたときには、思ってたのと違う!って思った。僕はもうちょっと知的で静かな曲がいいと思ってたわけだけど、それが元気な「世界中のこどもたちが」だったから、僕は え?って思ったんですよ。そしたら中川さんがしかもね、「Bメロできちゃったんだけど」って言うわけ。何にBメロって言ったら、♪タランタタンタン ランタタンタ タンタンタン タラタタンタン タンタラタタンタンタン って歌いだして、「ここに詞つけてよ」って言ったわけ、中川さんが。え?嘘でしょ?って最初思ったんですけど、すぐなるほどってなった。
最初の詩は少年がうつむいて♪世界中のこどもが いちどに笑ったら…だったの。でもね(はつらつと歌いながら)♪世界中のこどもたちが いちどに笑ったら 海も笑うだろう!っていう曲になってたんですよ。ここでジュリー・アンドリュースが発動されるわけです(笑)。それでそうかと思って、(Bメロの)♪タランタタンタン ランタタンタタン タンタンタンのメロディから、(両腕を広げながら)こうやって♪ひろげよう ぼくらの夢を とどけよう ぼくらの声を さかせよう ぼくらの花を 世界に虹をかけようー っていう詞を出した。そうしたら歌が全く変わったんですよ。
もう僕は作曲家すっごい!って思った。少年のつぶやきが、みんなで歌うメッセージの歌に、曲によって変わったんだから。そのためには、“こどもが”じゃなくて、“こどもたち”の方がみんなで歌う歌になって、ラララが入った方が調子が出て、広げよう!という感じになったんですよね。
僕はそうやって、言偏に寺の“詩”が、言偏に司の“詞”に変わっていくことを中川さんに教えてもらった。作曲家との共同作業をすることによって知らされ、学んでいきました。
詩集はひとりで読んだり、黙読したりするものだけど、歌っていうのは、曲がついたところから、みんなで並んで、先生がピアノを弾いて、いっしょに♪世界中のこどもたちが~ってクラスのみんなで歌ったりする。そこに歌の喜び、歌の幸せがある。同じ詞で、同じ曲を、みんなで覚えたからいっしょに歌える。曲がついて歌になると、魂が響きあったり、からだが響きあったり。歌は、音楽は、みんなでやると こんなに楽しい!っていう幸せがある。作曲家はそういうことをしてくれる。
自分のノートの中にちっちゃくあった言葉が、曲がついて、いっしょに歌うことで、みんなの歌になってきたりする。そういうことは、もうなんて幸せなんだろう! 僕は子どもの歌を作るっていうことは、本当に幸せなことだなと思って歌を作り続けてきました。
■お話に出て来た主な歌リスト
シャベルでホイ(作詞 サトウハチロー 作曲 中田喜直)
ちいさい秋みつけた(作詞 サトウハチロー 作曲 中田喜直)
まっかな秋(作詞 薩摩忠 作曲 小林秀雄)
歌えバンバン(作詞 阪田寛夫 作曲 山本直純)
サウンド・オブ・ミュージック(作詞 オスカー・ハマースタイン二世 作曲 リチャード・ロジャース)
ハッピーチルドレン(作詞 新沢としひこ 作曲 中川ひろたか)
アイアイ(作詞 相田裕美 作曲 宇野誠一郎)
ともだち賛歌(訳詞 阪田寛夫 作曲 アメリカ民謡)
サッちゃん(作詞 阪田寛夫 作曲 大中恩)
私と小鳥と鈴と(詩 金子みすゞ)
世界中のこどもたちが (作詞 新沢としひこ 作曲 中川ひろたか)
新沢としひこ
シンガー・ソングライター
1963 年 東京都生まれ。
保育者を経験後、数多くのCDや楽譜集を発表。1991年デュオグループ「Mr.ユニット」でCDデビュー。現在はソロコンサートやジョイントコンサート、保育講習会の講師として活躍するかたわら、CD制作のほか児童文学の執筆や絵本を出版するなどマルチに才能を発揮している。
代表作「世界中のこどもたちが」は、小学校の教科書に採用され、カバーも多数。「にじ」「ともだちになるために」「さよならぼくたちのようちえん」ほか、エバーグリーンなヒット作多数。また、ソロ作品「みちくさ」は世代を超えて好評を博している。
神戸親和大学 客員教授、中部学院大学 客員教授、日本童謡協会 副会長を務める。