道普請の歌のあと、その先生がサトウハチローを好きだったのか、サトウがその頃よっぽど売れっ子だったのかはわかりませんが、今度は「ちいさい秋みつけた」を教えてくれた。その歌が歌の絵本みたいになってたのかな。子どもが鬼ごっこしたり、遠くの方にきれいな家があって風見鶏があったりする絵とともに、「誰かさんが 誰かさんが 誰かさんが みつけた」から始まるその詩を読んでくれたんです。「めかくし鬼さん 手のなる方へ すましたお耳に かすかにしみた よんでる口笛 もずの声 ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた」って詩を全部。それが衝撃だったんですよ。
意味は全然わからなかった。「お部屋は北向き」はわかる。「くもりのガラス」もわかる。ミルクもわかったけど、全体を通しては全然わからなかったの。目は「うつろな目の色」だし。風見の鳥については「風の方向を示すために屋根についている鳥を風見の鳥って言うのよ」って説明してもらって、へーって思って。でも「ぼやけたとさか」??――とさかが ぼやけてるってなんだ?ってもう謎が謎を呼ぶわけ。「とかしたミルクって何?」とかね。でも謎だけどすっごく面白い、その絵と相まって、なんて不思議な世界なんだろう!そのわかんないことが素敵!!って思って。で、歌ってみたら、もう曲がとっても素敵で。もう僕はその時にわーん!って、何か雷に撃たれたかのように、すごいものに出会った、歌ってなんて素敵なものなんだって思ったんです。――それが僕の中で後に文学性と呼ぶものものだったんですが、そのいちばん最初が「ちいさい秋みつけた」だったんです。こうした言葉に触れたり、そういうことをしていきたいってすごく思った。僕の中では高校生ぐらいまで、目指すは「ちいさい秋みつけた」でした。
当時 例えば叙情派のフォーク、かぐや姫やグレープ、チューリップ、オフコースとかを知るようになって、ユーミンや中島みゆきの言葉にも影響を受けたりしましたが、一方でやっぱり子どもの歌を作っていきたいという気持ちがあって、「ちいさい秋みつけた」みたいな歌が作れたら本望、ぐらいに思ってたんです。
ところがですよ。高校生の時に、保育園の園長をしている父親にアルバイトに来いと言われて行って、実際の子どもたちに触れてみると、保育の仕事がとても楽しかったんです。実際の子どもたちって思ったのと違う!と思って。僕はひとりで絵本を読んでるような内向的で文学的な子どもでしたから。それが保育園に行ったら、わーっと子どもたちが遊んでいて、そこに巻き込まれてみると、実際の子どもってこんなにエネルギーがあって面白いんだって思った。
その後 大学生になって、夏休みに保育園にアルバイトに行ったとき「新沢君、楽器弾けるのよね。今日歌をみんなで歌うからピアノ弾いて」って頼まれて「まっかな秋」と「うたえバンバン」を弾いたんです。「まっかな秋」を弾く。みんなが♪まっかだな、まっかだなって歌って、おお結構上手じゃないかと思った。次に「うたえバンバン」を弾きました。そしたらね。口を大きく開けて♪口を大きく開けまして~!って、子どもが歌ったわけですよ。歌のボリュームが全然違う!!これは何?って思った。子どもたちがこの歌に出会って、自分の歌う歌が気持ちいいと思う、それが完全に一致してる感じが僕はすごいと思ったんです。それまで僕の中で「ちいさい秋みつけた」が最高峰だったけれど、僕は歌を作るんだったらこういう歌って思ったんですよ。「ちいさい秋みつけた」と「うたえバンバン」はすごく違う。でもすごく違うけど、いろんな良さがあるんだって思った。
それで思い出したんですけど、僕、中学生の時に学校の映画鑑賞教室で「サウンド・オブ・ミュージック」を観て、それも雷に打たれるように感動したんです。冒頭の場面で、山の遠くの方からカメラが近づいていくと山の緑の草原の真ん中にジュリー・アンドリュースが立っていて、それが小さいんだけど、近づいていくとジュリー・アンドリュースが大きく手を広げながら歌っているのを観て、これが音楽だ!これが歌だ!ってすごく思ったんです。「サウンド・オブ・ミュージック」は僕の歌の原点なんですけど、「うたえバンバン」を保育園で弾いて歌った時に、子どもたちが♪口を大きく開けましてっていう時に、口を大きく開けて♪歌声はアイアイアイって歌う、その感じがジュリー・アンドリュースと重なって。歌っていうのは、こうやってからだで表現すると、子どもたちが生き生きと表現すると、こんなことができるんだ! その、肉体がバーッて歌う感じがすごくいいと思ったんです。
「ちいさい秋みつけた」は、例えば目を閉じてイメージを膨らませるような、体は止まってるけれども、頭脳とか感性とかが生き生きと動くようなもので。一方、肉体がバーッと表現するのは「歌えバンバン」で、これはどっちも素晴らしい!と思って、こういう仕事をしたいと思って子どもの歌をたくさん書いていったわけなんですね。
『サウンド・オブ・ミュージック』ブルーレイ発売中
© 2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン
「サウンド・オブ・ミュージック」は、中学生の時に衝撃を受けた、新沢さんの「歌」の原点です。